大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和32年(ラ)39号 決定

抗告人 宮嶋鎮治

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由は、別紙「抗告理由書」、「抗告理由補充書」に記載のとおりである。

各抗告理由について、次のとおり、判断する。

「抗告理由書」に記載してある各抗告理由について、

第一

(一)  会社更生法第二百七十三条において、裁判所の定めた期間若しくはその伸長した期間内に更生計画案の提出がないとき裁判所は更生手続廃止の決定をすべき旨定めたのは、かかる場合においては、更生計画案の提出を期待し難く、更生手続は所期の成果をうることができないと認めたからである。

したがつて廃止の決定前更生計画案の提出があるときは、裁判所は爾後の手続を進行せしむべきであり、更生手続廃止の決定をすべきものでないこと理の当然である。抗告人主張のような原審のした期間伸長の決定が適法であるか否か、更生計画案がその主張の日に提出せられたか否かを問わず、原審において本件更生手続廃止の決定をしなかつたのは相当である。原審手続にはこの点につき何等の違法はない。

(二)  会社更生法第二百条において、関係人集会の審理を経た更生計画案の写又はその要旨を決議のための関係人集会期日前同条第二項所定の者に送達すべき旨定めた理由は、あらかじめ計画案の趣旨を関係者に熟知せしめ、その決議のための資料となさしめ、又は会社の業務監官庁等をしてその監督上の見地等からその意見を述べその他適当の行政措置を講ぜしめんがためであるから、審理のための関係人集会以前計画案の写又は要旨が同条第二項所定の者に既に送達してあり、その後修正がなされない場合においては同条第二項所定の者において更生計画案について充分検討する機会を持つはずであるから、重ねてこれを送達する必要はないと解すべきである。一件記録に徴すれば昭和三十二年一月十七日午前十時の本件更生計画案審理のための集会期日前である同三十一年十二月三十一日右計画案の要旨を関係人に、同三十二年一月五日右計画案の写を法務大臣及び大蔵大臣にそれぞれ送達したこと明かである。もつとも右計画案提出者である管財人井村荒喜外一名は右計画案審理のための集会期日に更生計画修正案を提出したこと一件記録に徴し明かであつて、右修正案の写又は要旨を右期日前に同条第二項所定の者に送達したことは認められないけれども、同修正案は、計画案第一章第二款優先的更生債権その一(公租及び公課)の内優先的更生債権者東京国税局の届出総額一一〇、五三一、六九九円を一四〇、三一五、〇二六円と改め、その「権利の変更並に弁済方法」を変更し、同款の内優先的更生債権者横浜南社会保険出張所長外四名の届出総額三四、九八六、一一八円の「権利の変更並に弁済方法」を変更し、同款の内優先的更生債権者横浜市金沢区長外四名の届出総額七三、七四三、六九二円の「権利の変更並に弁済方法」を変更し、同章第四款更生債権及び劣後的更生債権の確定総額七三七、六八六、三二二円一七銭を七三七、四八七、八二七円一七銭と改めその他一、二の変更を加えたに止まり、その要旨において前記更生計画案と異なることなく、全体としてみるときは、関係人に影響を及ぼすこと極めて少く、右監督官庁等の監督上の所見等に変更を生ぜしむべき程度のものとは認め難いから、同修正案の写又は要旨の送達がなかつたとしても、前記計画案の写又は要旨の送達があつた以上、前記説示するところにより、同条第二項の規定は遵守されたものといいうべく、仮りに右規定に違反したものとしても、その違反の程度と後記会社の現況を考慮するときは、本件計画を認可しないことが不適当と認められるから、これを認可した原決定は会社更生法第二百三十三条第二項の規定の趣旨にかんがみ、結局違法とはいえない。また更生会社は従前から武器製造法にいわゆる武器の製造を業とする者であるから、更生計画案の写または要旨はこれをその監督官庁である通商産業大臣に送達すべきところ、一件記録によれば、本件更生計画案の要旨の送達は、通商産業大臣石橋堪山宛になされ、特定の局又は課宛になされたものでないこと明かであるから、(記録D冊一七七丁以下殊に一九〇丁)更生債権者国の代表者であるとともに監督官庁である右通商産業大臣石橋堪山宛に本件更生計画案の送達があつたものと認めるのを相当とする。

この点の抗告理由も採用することを得ない。

(三)  一件記録に徴すれば、原審は抗告人主張のように、「更生計画案の審理のための関係人集会と決議のための関係人集会の期日を昭和三十二年一月十七日午前十時と定める旨」決定したこと明かである。しかしながら更生計画案の決議のための関係人集会はその性質上審理のための関係人集会があることを前提とし、その後に開催せらるべきものであること明かであるから、右期日の指定は昭和三十二年一月十七日午前十時審理のための関係人集会を開催し、その集会が終つた後引続き決議のための関係人集会を開催する趣旨であると認むべきである。会社更生法においては、更生計画案審理のための関係人集会と決議のための関係人集会との間には一定の期間を置くことを命じていないから、会社更生法第二百条第二項の規定の遵守ある限り、右のような期日の指定もこれを以て直ちに違法とはいい難い。そして右のような期日の指定をした場合に、もし裁判所において関係人集会の審理を経た後更生計画案につき修正命令を発し、その他関係人等に決議のため熟考せしめる等の必要があると認めるときは、決議のための関係人集会期日は、これを延期すれば足りるのであるから、このように解しても何等の不都合を生ずるものではない。しかも本件更生手続において同条第二項の遵守があつたと認むべきか、または少くともこの瑕疵を問題とすることが不適当であることは、前記(二)に示すとおりであるから、右期日の指定は適法というべきである。一件記録によるも、原審が抗告人主張のように如何なる審理状況においても、あらかじめ修正命令を発しない方針のもとに形式的に集会を終らしめんがため、前記のような期日の指定をなしたものとは認め難く、また右のような期日の指定も適法であること前に示したとおりであるから特別の事情がない限り、直ちに本件更生計画案の決議が誠実、公正な方法でなされなかつたとは断じ難い。この点の抗告理由も採用の価値あるものではない。

(四)  本件更生計画案によれば、抗告人主張のように更生会社が従来なしていた兵器生産事業を大幅に縮減し、昭和三十三年度以降は当該事業については、機銃弾月産千万円程度を生産するに止め、その得たる利益を以て債務の一部の弁済に充てる旨定めている。武器製造法第四条の規定によれば、従来の生産設備、保管設備を変更する場合には、監督官庁である通商産業大臣の許可を要することあるべく、その許可を得べからざるものであるときは、右生産事業はこれを営むことができず、その結果会社更生法第二百三十三条第一項第二号にていしよくし、計画の遂行不可能として不認可の原因となるに過ぎないのみならず(従つて同法第百九十四条第二項により意見を聞くことは必要でない。)、通商産業大臣は未だこの点につき何等の意見をも発表しないのであるから、本件更生計画が同条第一項第五号にいわゆる「行政庁の意見と重要な点において反して」いると断定し得ないことをいうをまたない。右抗告理由も排斥を免れ難い。

(五)  本件更生計画案において、更生会社は更生担保権及び更生債権の弁済に充当するほか、増加運転資金に充てるため、株式会社千葉銀行から三十二年五月以降昭和三十六年十二月末日まで金六億円を限度として借受ける旨記載してあること抗告人主張のとおりであるけれども、該事項は右(四)に説明したとおり会社更生法第二百三十三条第一項第五号に該当しないのみならず、銀行が資金の貸付をなすにあたり大蔵大臣の許可を要するものではないから、これと異なる前提のもとに、裁判所は会社更生法第百九十四条第二項の規定により大蔵大臣の意見を聞くべきものであるとの抗告人の主張は採用し難い。

(六)  一件記録に徴すれば、昭和三十二年一月十七日午前十時の計画案の審理及び決議のための集会期日の通知は、通商産業大臣石橋堪山宛になされ、特定の局又は課宛になされたものでないこと明かであるから(記録D冊一七七丁以下殊に一九〇丁)更生債権者国の代表者であるとともに、監督官庁である右通商産業大臣石橋堪山宛に右集会期日の通知がなされたものと認めるのを相当とする。

この点の抗告理由もまた採用し難い、

第二

(一)  本件更生計画案の事業計画によれば、更生手続開始後繊維機械については株式会社石川製作所の協力を仰ぎ、また不二越鋼材工業株式会社の協力によつて精密加工専用機械製鋼用機械等の受註態勢を整える等積極的にこれ等の実現を図り、産業機械として月産金四千万円以上を目標に生産を増大する方針であり、一件記録に徴すれば、管財人井村荒喜が不二越鋼材工業株式会社を、同直山与二が株式会社石川製作所を各主宰する者であること明かであるけれども、この一事により直ちに右両会社と更生会社との問になさるべき取引が不正、不公平であるとは断じ難く、右両管財人に背任の虞があるとの事実については、これを認めるに足る証拠はない。この点に関する抗告理由は一額の価値もない。

(二)  更生会社が前記株式会社千葉銀行から金六億円を限度として融資を受けることが本件更生計画遂行の基盤をなすことは、右計画案自体により明かである。抗告人はこの点につき株式会社千葉銀行が更生会社に右のような融資をすることは絶対にあり得ないと主張し、同銀行と更生会社との間に同銀行が同会社に右金員を貸付ける旨の契約成立した事実したがつて株式会社千葉銀行が更生会社に対し、右金員の貸付をする債務を負担した事実は、これを認め難いけれども、同銀行の代理人は本件更生計画案審理及び決議のための集会に出席し、右内容を包含する本件更生計画案に対し何等の異議を述べなかつたことは、一件記録(二七三丁以下)に徴し明かであるのみならず本件更生計画案認可後着々としてその融資の実行をなしていることは、これまた一件記録(当審記録一四七丁以下)によつて、これを認めうるから、今後も同銀行が更生会社に対し、更生計画案に定めるところの融資をなすことを期待しうべく、本件計画がこの点において遂行不可能になるものとは認め難い。抗告人提出の甲疏第二、三号証は採用しない。

第三

(一)  株式会社千葉銀行が更生会社に対し、本件更生計画案に記載してあるような融資をすることを承諾していた事実(法律上の契約が成立していたことを意味しない)は右第二の(二)において説明したとおりである。したがつて仮りに管財人が昭和三十二年一月十七日の計画案の審理及び決議のための関係人集会の席上抗告人主張のような言辞をしたとしても、その基本たる株式会社千葉銀行が更生会社に対し融資を承諾していた事実については、何等欺罔なく、欺罔にもとずき決議が成立したものとはなし難いから、この点につき決議が誠実、公正な方法でなされなかつたとはいい難い。この点の抗告理由は採る余地がない。

(二)  この点に関する抗告人から提出の甲疏第四号証の一、二同第五号証、同第六号証等(当審記録五一丁以下)の各証拠は、当裁判所の採用しないところであつて、その他本件決議につき抗告人主張のような不公正な手段が弄せられたとの事実についてはこれを認むべき証拠がない。この点の抗告理由も採用するに由ないものといわねばならぬ。

(三)  本件更生計画案の審理及び決議のための関係人集会の調書に「裁判長は更生計画案は各組において可決された旨を告げ更生計画案認否の決定を言渡す期日を来る一月二十一日午前十時とする旨の決定を言渡した」旨の記載があつて、右調書によれば特に原審裁判所の裁判長が会社更生法第百六十四条、第百六十五条に規定する関係者に認否につき意見を述べることができる旨告げた旨の記載がないが、裁判長においてこのような催告をなすべき旨の規定がないから、これをなさずとも違法とはいい難い。右関係者は裁判長の許可を得て意見の陳述をなせば足りるのであつて、右調書の記載によるも、右意見陳述の機会を剥奪したものとは認め難い。なお原審においてなした更生計画案審理及び決議のための関係人集会の期日の指定が適法であることは、第一の(三)に説明したとおりである

(四)(イ)  本件更生計画に定めるところの増資の引受及び払込が完了したことは、一件記録(当審記録一四〇丁以下)に徴し明かであり、また管財人が抗告主張のような答弁をなしたとしても、必ずしも不誠意とはいい難い。

(ロ)  一件記録中の更生計画案の審理及び決議のための関係人集会調書を調査したが、原審において抗告人主張のように関係人の発問または意見の陳述を抑止したとの事実を認め難い。

抗告人主張のこの点に関する抗弁理由は採用し難い。

「抗告理由補充書」に記載してある各抗告理由について

第一

この点については、「抗告理由書」第一(四)について説明したところと同様である。なおここに一言すべきは、工作機械輸入補助金交付規定に関する点であるが、通商産業大臣が輸入補助金を交付するにつき附した条件に被交付者が違反した場合においては、同人は補助金の減額または返還を命ぜられるに止まり、何等その利用関係に影響を及ぼすことはないから、抗告人主張のような事実あるも、この一事により本件更生計画案に定めた武器生産事業にそごを来す虞は全くない。

第二

更生会社が株式会社千葉銀行からの融資を期待しうべきことは、前に述べたとおりである。(「抗告理由書」第二(二)について説明したところ参照)一件記録(殊に当審記録一一三丁以下及び一五五丁以下等参照)によれば、更生会社の業務活動は漸次活溌となりその従業員数も二百余名増加しなければならないような盛況に立入り、その利益も更生計画案に定めるところを超え常に相当の受註残を存しつつ、更生債権等の弁済を計画通り実行しつつある事実を認めうる。もつともその反面更生会社が前記株式会社千葉銀行のほか丸紅飯田株式会社その他から相当額の融資を受けている事実がないではないけれども、これ等の資金は本件更生計画案に定める設備拡張または受註品の材料購入等のために使用せられることあるべく、右営業の活溌であることに思いをいたすときは、更生会社の右債務の負担を以ていわゆる行詰りを来たし、更生の実を挙げ得ないものとはいい難い。また管財人が会社の更生を故らに遅滞させて、巨大なる土地建物の廉価取得を図りつつあるとの事実については、これを認むべき証拠がない。この点の抗告理由は抗告人独自の見解にもとずいて、本件更生計画案を攻撃するものであつて採るを得ない。

第三

更生会社の資産価格が総計金三十億円以上であるとの抗告人の主張については、これを一件記録中の上申書(当審記録一〇三丁以下)にくらべ採用し難く、本件更生会社の運営にその人を得たならば、各種債権者、株主等に本件更生計画案よりも遥かに有利な結果を来すべきことについては、一件記録に徴するも、これを肯認するに足る資料がない。そして更に抗告人主張のように、本件更生計画案において減資し、旧株数の倍額以上の新株を発行し、その募集方法を管財人に一任したればとて、これを以て公平を失するものとはいい難い。何となれば一般に更生会社は信用薄く、特に関心を持つ者以外その増資引受の申込をしないのが普通であるから、その割当を管財人に一任するもやむを得ざるべく、また更生会社に対する投資はこれまた通常不安であるから、新株主については、これを旧株主より優遇する要あることまことに見易いところである。この点の抗告人の抗告理由もまた抗告人独自の見解にもとずくものであつて採るを得ない。

以上のように抗告人の各抗告理由はこれを採用し得ないから本件抗告を棄却すべきものとし、主文のように決定した。

(裁判官 奥田嘉治 牧野威夫 青山義武)

(別紙)

抗告理由書

緒言

会社更生法(以下法と略称)は、第一条に明記するよう窮境にあるが再建の見込のある株式会社について、債権者、株主その他の利害関係人の利害を調整しつゝその事業の維持更生を図ることを目的とする。ところが従来幾多の更生手続によると兎角債権打切りが当然の権利である如く、債務者が債権者に対し傲然と臨んでいる、これは実績から見た法の弊害と云うも過言でない。管財人も法的に与へられた諸般の権限や諸般の法独特の特例等からまるで官吏のように思つている。債権者の同意が無くとも、裁判所の許可さへあれば押し付け得られ、担保権者でも押し切れるといつたような気風が見受けられ、裁判所も亦管財人を過信し善意の過失がないとは保障出来ない。ところが管財人の選任に当つてその人を得るはまた困難なことである。そこで裁判所は特段の注意のもとに十分慎重に更生法の厳正適切なる運用をして頂きたい。

以下項を追つて抗告の理由を詳説します。

第一更生手続又は計画が法律の規定に合致せず更生計画認可の要件を欠く諸点について

(一)、裁判所が命じた更生計画案提出期間を徒過し之れに遅れて提出したる計画案を審理及び決議するは重大なる法規の違反である法第二七三条には職権で更生手続廃止の決定をしなければならない場合の一つとして、

裁判所の定めた期間若しくはその伸長した期間内に更生計画案の提出がない場合

を規定している。

記録D冊によれば、会社及届出をした更生債権者、更生担保権者及株主は、裁判所の定めた期間である昭和三十一年八月三十一日迄に、更生計画案を提出した事実も無く又期間の伸長をし(法第一九〇12第一八九条)之れが期間迄に提出した事実もない。

管財人は法第一八九条1項により更生計画案を提出しなければならないところ、右届出期間が昭和三十一年九月三十日迄であるが、此の期間に間に合はないので、昭和三十一年九月二十八日裁判所に対し、右期間の延期申請をなし、裁判所は十月三十一日迄右期間伸長の決定は許可している。ところが裁判所の期間伸長の決定は十月一日になされている。従つて所定の九月三十日迄に更生計画案の提出は明らかに無かつたのであるから、十月一日期間伸長の決定は違法であつて裁判所は更生手続の廃止を決定すべきである。

而かもなお管財人は伸長された期間の十月三十一日に至るも更生計画案を提出していない。

単に十月三十一日「昭和三十年(ミ)第十六号昭和三十一年(ミ)第四号会社更生手続開始決定(四)主文第一項により標記計画書別冊の通り提出致します」と記載せる一枚の文書のみ提出してある。(受付日捺印には「東京地方裁判所昭和三十一年十月三十一日」と記載あり)のみで更生計画書の提出はない。却つて「昭和三十一年十一月十五日東京地方裁判所」と記載せる受理捺印のある更生計画案が存在する。即ち提出期間の昭和三十一年十月三十一日には全然更生計画案の提出はない。従つて当然之の事実を以て更生手続の廃止決定は法第二七三条に基きなされなくてはならない。三十二年一月十七日の更生計画案の審理及決議の関係人集会の調書によるも、「管財人直山与二は三十一年十一月十五日受付更生計画案及び三十二年一月十七日付更生計画案修正許可申請書に基き、その内容を各説明した、」と明記しあることによつても期間内に提出はなかつたことが明白である。

従つて裁判所としては当然職権で更生手続の廃止を決定すべきである。之れを為さざるは更生手続が法律の規定に合致していないことになるからその認可決定はまた取消すべきである。

而かも此の更生計画案を一月十七日、正当に提出されたものとして審理及決議のために討議するのは、誠に決議が誠実公正な方法でされたとは云えないから、此の計画を認可した決定は不当の措置で取消すべきである。

(二)、裁判所が関係人集会の審理を経た更生計画案を予じめ送達して之れに対する意見申述の機会を与へなかつたことは更生手続上の重要事項の法規違反である。

更生計画案の提出があると裁判所は之れを審理するために期間を定めて関係人集会を招集しなければならない(法第一九二条)そして此の集会によつて審理を経た計画案につき裁判所が修正命令を発しない時は裁判所は計画案につき決議をするため期間を定めて関係人を招集しなければならない(法第二〇〇条1項)そして此場合裁判所はあらかじめ、その計画案の写又は要旨を管財人、会社、届出した更生債権者、更生担保権者、及び株主、更生のため債務を負担し、又は担保を供する者、会社の業務を監督する行政庁、法務大臣並に大蔵大臣に送達しなければならない。(法第二〇〇条2項)蓋し会社の業務を監督する行政庁、法務大臣、又は大蔵大臣は、法第一九四条3項により、何時でも裁判所に対し、計画案につき意見を述べる事が出来るから、その機会を得しむるために此の計画案を送達しなければならないのである。

ところが本件更生手続につき記録を関するに更生会社日平産業は兵器其の他工作機械を製造するもので通産省の監督を受けているものであるが、審理を経た計画案で、その決議前に法第二〇〇条第2項所定に従い、通産省に計画案を送達した事実が無い。即ち之れは法第一九四条3項に規定する様に計画案につき意見を述べることの出来る方法をとらなかつたもので、かかる場合若し関係行政庁の意見が計画案と甚だしく異る場合は、計画案遂行の能否を左右するから、此意見申述の機を与へないのは、重要なる事項に係る法規の違反があると謂うべきである。

(附言)本件更生手続開始の決定は裁判所は法第四十七条2項第四十八条1項により会社業務の監督官庁として通産省及法務、大蔵両大臣へ通知しておき乍ら更生計画案につき制規の通知をしないのは誠に法規違反であろう。そしてその後裁判所は三十二年一月五日付で法務、大蔵各大臣には計画案要旨を添へて一月十七日午前十時の審理及決議の関係人集会開催の通知をしているのみである。而かも此通知は法第二〇〇条第1項第2項による審理を経た計画案の送達ではなく、単に法第一六五条による期日の通知である。従つて法第二〇〇条12項による計画案の送達は、業務を監督する行政庁である通産省は勿論、法規上送達すべき事を定められている法務大臣、大蔵大臣になされなかつた法規違反事実となることは明かである。

(三)、更生計画案の審理の為の関係人集会と決議のための関係人集会とを同一期日に併合処理するは法規に違反する。

更生計画案は関係人に於て審理せられた後裁判所の命により一定の期日に決議のため関係人集会を招集せらるべきである(法第二〇〇1項)更生計画は会社更生の為に利害関係人は多大の犠牲を余儀なくされやすいから、右計画案の検討は十分にせしむるべきであるための集会の間に関係者は計画案の送達を受け(法第二〇〇条2項)十分検討して決議をすべき建前に規定されている。

ところが本件更生手続を記録によつて検討すると、裁判所は三十年十二月廿八日付で管財人の申立により、会社更生法第一九二条第二〇〇条1項の規定により「更生計画案の審理のための関係人集会と決議のための関係人集会の期日を三十二年一月十七日午前十時と定める」旨の決定をしている。(管財人は両期日の併合指定方を申請している)而して

法第一九二条は裁判所が審理の為の関係人集会を、

法第二〇〇条1項は審理を経た更生計画案の決議の為の関係人集会を、

夫々期日を定めて招集しなければならないことを規定するに止まり、同一期日に両者の関係人集会を招集しうる事を定めているものでない。右条文は又裁判所に同一期日に前記審理と決議の集会を招集し併合して審理決議しうべき権限あることを規定して居るものでない、むしろ審理を経た計画案を洩れ無く所定関係人が送達を受けて検討しうる機会を与へるため、審理の集会と決議の集会を区別して招集しなくてはならぬ事を規定している。裁判所が審理を経た計画案を検討し修正命令を発しない時初めて右計画案の写又は要旨を決議のための集会に備へて関係人に送達し決議のための集会を期日を定めて招集すべき規定になつている。裁判所が提出された更生計画案に対し、如何なる審理情況となつても、予じめ修正命令を発しない方針のもとに、続いて決議せしめんとして審理と決議の集会を併合する期日を指定するのは全く法の精神を没却し法規に違反するものである。

期日を併合し得る事は法第一六八条に規定するも、右は関係人集会と更生債権及び更生担保権調査の各期日を併合し得る丈で、関係人集会期日丈けと併合し得るものではない。

仮りに一歩を譲り関係人集会の期日のみでも併合しないとしても審理を経た計画の関係人に対する送達も十分になし得ず、之れを検討するに十分なる余裕もないから決議する事は困難であり不十分であつて審理の期日と決議の期日を併合するは相当でない。管財人が更生計画案審理のための関係人集会と決議のための関係人集会との併合期日を申請したのは、十分なる審理をする事により、更生計画が公正、衡平を欠き遂行不可能なる事が論議されるを虞れ、短時間に形式的に集会を終らしめ、計画案認可決定を得んと意図したるによるもなる事が一月十七日の調書記載の事実を対照して十分に窺はれる次第である。

以上の次第で更生計画案審理の為の関係人集会と決議のための関係人集会とを同一期日に於て併合処理したるは、法規に違反するか決議が誠実公正な方法でなされなかつたことに帰し、此の可決に基いて為した計画案の認可決定は失当で取消さるべきものである。

(四)、本件更生計画案は法第一九四条第二項該当の計画案であるが、その必要手続を欠缺しているから法規に違反する。

本件管財人作成の更生計画案によると従来本社は兵器加工部門の拡充を計り八一粍照明弾、バスーカ砲、砲弾填楽など兵器生産を過大な計画でして来たが、今後は兵器専用の特種設備の機械設備を利用してゲージ類機械部品等の受註加工とし三十三年以後は機銃弾の月産千万円程度の生産計画をするのみに止めるとし一方産業機械の生産を計画して生産高の増大を期し二十四年以来の舶用エンヂンの生産を中止する等の事業計画をしている。即ち兵器生産は小量の機銃弾のみとし兵器専用の特種機械設備を他の機械部品等の生産設備に充当している。

是等産業計画の増縮、生産品種の変更、増減特に兵器専用設備の転換、増縮、兵器種類の変更、生産高の増減等は防衛計画との関係もあつて会社の業務上通産省の監督を受けているのみならず同省の許可、認可、免許其他の処分を要しその計画は之れを要する計画である。従つて之れを定めた本計画案については裁判所はその事項につき当該行政官庁である通産省の意見を聞かなければならない。(法第一九四条第2項)

ところが記録によれば、本件につき裁判所は右計画案を法第二〇〇条第2項に従い通産省に送達した事実も無く、法第一六五条により期日の通知をした事実も無く最も重要なる法第一九四条第2項による通産省の意見を聞いた事実も無い。

計画案の認可に該ては之れら行政庁の一定の処分を要する事項を定めた計画については、法第一九四条第2項の規定による行政庁の意見と重要な点に於て反していないことを認可の要件とするも本件計画案に関しては、裁判所は当該行政庁である通産省の意見を求めていないから、その意見を知るに由なく、その手続は法第一九四条に違反するのみならず、右意見を聞かざる認可決定は法第二三三条第1項第五号の要件を欠き失当で当然取消さるべきものである。

(五)、更生計画案中株式会社千葉銀行より金六億円を限度とする借入金をなすとの事項は、千葉銀行としては大蔵省の許可、認可、免許、或はその他の処分を要する事項を定めた計画に該当し、裁判所が右大蔵省の意見を聞かず認可決定するは、法第一九四条第2項法第二三三条第一項第五号に違反し、認可の決定は失当である。

本件更生計画案によると株式会社千葉銀行から、金六億円を限度とする借入金を得て、更生担保権、更生債権の弁済に充当する旨の計画になつている。而して実に千葉銀行は本件会社に対し四億円余の債権を有し、回収困難を極めた結果、自ら更生手続開始の申立をしたものである。その会社更生のために、六年間に自己の縮減された更生担保債権を完済すると云う計画遂行のために更に改めて金六億円を貸付けすることは、危険此上なく、新債権回収は一段と困難なるは当然で監督行政官庁としては、右貸付けを許すべきでない事は容易に察知されるのである。大蔵大臣は銀行に対し、報告徴集等の権限、検査其他必要なる処分の命令を為す権限を有し、千葉銀行と更生会社とのような事情のもとに於て更に更生会社に金六億円の融資をするに際しては報告をなさしめて検査し必要な処分をなすべきものである。従つて千葉銀行より金六億円の借入金をして債務弁済に充当するとの本計画案の認可には法第二三三条第一項第五号の要件を必要とする処から、裁判所は法第一九四条第2項に従い、大蔵省の意見を聞かなければならない。そして之れを勘案して計画案認否の決定をなすべきであるところ、単に法第一六五条による期日の通知をしたのみで前記重要なる手続を為さざるは法令に違反し、且右違反は実に本件計画案の枢軸、基盤である借入金の成否にかかり直ちに計画案の遂行の能否を決定的にすろものであるから、裁判所が之れを為さず計画案を認可したのは、法第二三三条第2項の存在を考慮に入れて益々失当で速かに取消さるべきものである。

(六)、本件計画案の関係人集会の期日を会社の業務を監督する行政庁に通知せざりしは法第一六五条の違反である関係人集会の期日は会社の業務を監督する行政庁、法務大臣及び大蔵大臣に通知しなければならない。(法第一六五条)然るに本件記録によると大蔵大臣、法務大臣に対しては三十二年一月五日付を以て、第一六五条の規定により、一月十七日午前十時計画案の審理並に決議をする旨の、右計画案要旨添付の期日通知が為されているが、本件会社の業務を監督する通産省に対する通知はなされていない。

右は必要的通知であつて之れに違反する事は監督行政庁の必要意見を陳述する機会を与へざりし事になり、計画遂行に重大なる影響を与へるものである。

第二本件更生計画は公正、衡平でなく且つ遂行可能でないから更生計画認可の要件を欠く諸点について申上げます。

(一)、本件更生計画案の事業計画によると更生手続開始後繊維機械については株式会社石川製作所の協力を仰ぎ又不二越鋼材工業株式会社の協力によつて精密加工専用機械、製鋼用機械等の受註態勢を整へる等積極的にこれ等の実現を図り産業機械として月産三千五百万円以上を目標に生産を増大する方針であるとしているも管財人井村荒喜は不二越鋼材を主宰して管財人直山与二は石川製作所を主宰するもので、売買条件支払方法其他の面より公正をかくことあるの虞あつて遂行の可能性に危惧の念を抱かしめる。殊に抗告人は会社財産を管財人が売却するに際し、背任の嫌疑十分なるにより曩きに告訴の已むなきに至りたる実例に徴し、一そう此感を深めるものである。

(二)、株式会社千葉銀行は本件更生会社日平産業株式会社に金六億円を限度とする融資をしないのに不拘、右融資を得るものとして計画したのは公正衡平を欠き且つ計画遂行の可能性を欠如する。

本件更生計画案によると緒言に於て「更生担保権者千葉銀行の協力によつて債務処理に要する資金の一部について、融資を得られる事になり、更生債権の弁済期間を著しく短縮せられ、今後三十六年末迄の五ケ年間に、総債務を完済する計画を樹立し得た」とし、第一章第六款弁済資金調達方法の款下に於て「株式会社千葉銀行より昭和三十二年五月以降三十六年末日に至る間に、金六億円を限度とし借入れを行う」としている。計画案を通読吟味すると此の金六億円の融資が計画遂行の基盤であり、根幹で有つて此融資が不能の暁は計画は根本的に崩壊し、遂行不能となる事は火を見るより明らかである。

然るに抗告人に対し千葉銀行頭取古荘四郎彦、副頭取笹田登、専務取締役奥野徳一、取締役監理部長鶴岡勝等いずれも右更生会社に対し右金員の融資を承諾した事実なく却つて申入れがあつたので断るとそれでは計画案を作る事が出来ないので、承諾したという丈けを承知してくれといはれ判然と融資しない事になつておる。従つて融資につき役員会で決議した事実もない旨を言明している。即ち本件更生計画案は千葉銀行が金六億円の融資を拒絶したるに不拘三十二年五月以降三十六年末日に至る間右金額六億円を限度とする融資を得られる事実ありとしたもので、甚だしく公正を欠き而かも融資なき時は全く遂行不可能となるものであるから、本件計画案は到底認可すべきものでなく、之れを認可した決定は当然取消すべきである。

第三更生計画案の決議が誠実公正な方法でなされなかつたのでその認可決定は失当である諸点

(一)、前掲第二の(二)に記載したように更生会社は千葉銀行から実際には金六億円を限度に融資する事を断られその融資の契約も出来なかつたに不拘管財人は恰も更生会社が金六億円の融資を得て更生債権等の債務弁済に充当し、五年後には総債務が完済し得られる旨の更生計画案を作成し、裁判所、更生債権者、更生担保権者等に交付して欺罔した上、一月十七日の右計画案の審理及び決議の関係人集会席上に於て、特に管財人直山与二は千葉銀行が六億円融資することにつき「千葉銀行は之れに対し種々検討し、銀行から公式の委任状を頂き御同意を得ている」と答弁して、集会者を一そう誤信せしめたる後、投票により計画案を可決せしめたもので、右は欺罔により議決権を行使せしめたもので決議が誠実、公平な方法でなされなかつたことに帰し、之れが、可決に基き裁判所が本件計画案の認可決定をしたのは、認可の要件を欠いているもので、失当であり取消さるべきである。

(二)、更生計画案の決議に際しては種々公正ならざる手段を弄し委任状による投票決議が行はれたこと、

(イ) 池貝鉄工株式会社について、

右は更生債権額四、一一三、三〇五円を有し、約二ケ年前より売掛代金約三、五〇〇、〇〇〇円を取立てる為、日平産業を相手取り係争中のところ、昨三十一年十二月に至り日平側より早急示談解決するから反対者側の陣頭に立たぬようと申込まれ計画案に賛するに至つた。

(ロ) 日新火災海上保険株式会社

右は更生債権額一、六九八、七七八円を有し、従来会社再建案に反対の急先鋒であつたが、管財人より昨三十一年十一月末頃日平横浜工場につき火災保険契約をする代はりに更生計画案に賛同してくれと申込まれ応諾した。

(ハ) 松田建設株式会社

右は多額の更生債権を有し更生計画案に反対を称へ来たが、管財人より本年一月十六日人を以つて計画案に賛成してくれると約二千万円の仕事をやるからと誘導して来た。

(ニ) 其他更生債権者光商工株式会社、斎藤電気商会其他多数のものに対し夫々取引を条件に賛同を要請し来たりたる事実

(ホ) 従業員(会社の労働組合員)は給与更生債権の請求につき執行委員に委任状を交付して居るので、関係人集会に強いて出席の必要が無かつたが、管財人は右労働組合の幹部其他約二十名程に一月十七日の審理及び決議の関係人集会に出張名義で日当を給与して出席せしめ、予ねて管財人が他から入手しておいた他の債権者の委任状を渡し、之れを行使せしめて賛成投票をなさしめた。

是等の事実はいずれも決議が誠実、公正な方法でなされなかつた事実である。従つて認可の要件は欠如して居るので認可決定は取消されなくてはならない。

(三)、更生計画案の認否につき法律が意見を述べる権限を与へているものに対し、認否を述べる機会を与へなかつた時は決議は誠実公正な方法で為されたとは謂へない。

法第二三二条第2項は法第一六四条及び第一六五条に掲げる者は計画の認否につき意見を述べうる権利を有する事を規定している即ち仮令計画案が可決されても、これを認可するが相当か否かにつき自由に意見を述べうる次第である。然るに本件記録によると審理の集会と決議の集会との間に期間が無いので可決した計画の認否につき意見を述べる機会が無かつた且つ審理及決議の関係人集会の調書によると「裁判長は更生計画案は各組において可決された旨を告げ更生計画案認否の決定を言渡す期日を来る一月二十一日午前十時とする旨の決定を言渡した」と記載されており、計画案可決について、法第一六四条第一六五条の関係者に認否につき意見を述べうる事も告げず、その機会も与へなかつた事が明認出来る(此点からも審理の集会と決議の集会との期日を併合すべからざるものなることは明かである)

右は法第二三二条2項を無視し之れに違反したもので更生手続が法律の規定に合致せざるものと謂うべく決議が誠実公正に行はれなかつたとも申されよう。

(四)、更生計画案の審理に際し十分なる審理を為さず又為さしめずして終結しその可決決定を得たとしても右は誠実公正に為されたとは謂へない。

(イ) 更生計画案中更生債権等の弁済計画によると増資払込金による増加資本の額を壱億三千万円、株数を二、六〇〇〇〇〇株、一株の発行価格五〇円、一株の払込金五十円、割当方法管財人一任としている一月十七日に於ける計画案の審理及び決議人集会に於て、此一任に関し、縁故募集との事だがどういう状況かとの質問に対し、管財人井村荒喜は「此の新株はいろいろな金融関係、その他の協力関係その他の協力関係にお願いして株を持つて頂くという考へで居るので、此点は私ども自信をもつて此案通りにやるつもりですから、御安心して結構です」とのみ答弁している。之れ丈けでは果して株金払込完了の確実性遂行の可能性も把握することは到底出来ない。之の答弁で足りるとする管財人は些少の誠実も認められない。

(ロ) 更生計画案中弁済資金の調達方法によると、第四号に会社所有の資産中本件計画の遂行に不用と認める固定資産を裁判所の許可を得て売却し借入金の返済並に更生担保権の繰上げ弁済資金に充当するとある。計画によると已に前掲の如く、兵器専用の特殊設備や機械設備があり、広大な土地があつて、兵器産業を縮少するの結果、計画遂行に不用となるの理由で売却される運命に陥り易い、従つて此の処理については売却方法其他相当審究を要すべきであるが管財人は此点に関する何等の説明も与へない。

以上の点からも十分関係人は意見を述べ、質疑もなすべき機会を十分に持つべきが至当であるに不拘、一月十七日の集会に於ては、大同製鋼の代理人一人が質問したるに止まり同和火災海上代理人がつづいて賛否の意見をとるべき動議を提出し他に質問し意見を述べようとしたものがあつて抑止せられ裁判所は直ちに審理終了を告げた右は誠実公正な方法でなされなかつたと謂はざるを得ない(一月十七日作成調書援用)

叙上掲述した諸点から本件更生計画を認可するにはその要件を備へず認可の決定を為すべからざるに不拘之れを為したるものにして、更生裁判所である東京地方裁判所民事第八部が為したる昭和三十二年二月十一日の認可の決定は当然取消すべきものである。

結び

抗告人は元日平産業株式会社社長として会社の発展を祈念し情熱を傾けて事業の充実拡大を図つたが、急激な拡充は遂に志と異つた結果を招来するの悲運に遭遇し諸般の事情を考慮し引責辞職したるも社運の行来に対しては深く愛情を感じており今日の更生計画案を検討して会社、株主、債権者等の不利益甚だしく余りにもみじめなのに痛恨極まりない。

現今の国際諸状勢、内外の経済事情等を考慮に容るれば会社が有する諸設備、諸機械、不動産等は十分に活用の途あり、空しく弊履の如く捨てて売却する事断腸の思いである。

従来屡々首脳部が代り再建を策しても社運の復旧せざりしは生産面増大の策の適切ならざることに因するなきに非らざるも資金の枯渇に因る事が一大原因であつたと資料する。

本件更生計画案は極度の資本減少と債権の切捨建物、機械、設備、土地等の莫大なる切捨売却等をなし僅かなる営業余剰金と莫大なる他からの借入金を以て而かも長期間に債務を完済せんとするもので本来の会社資産を基本として事業の維持更生を図るを目的とする更生法本来の性格とは甚だ遠きものなる事を痛感する。

従来抗告人が会社に対して為した事業、経営の情熱、並に蹉跌の縁由を審究熟知して抗告人のため、理解と同情をもつて会社株主、債権者其他のものの利害関係を調整し本件計画案より遥かに有効適切なる企画の元に会社事情の維持更生を図る為、綿密厳正にして而かも確実なる計画を用意しておる保護者がある。此の保護者によつてせば、巨大の財界の信用と財力を基盤に極めて短期間に更生債権者、更生担保権者等の債務を完済し、且つ会社の諸設備、諸機械等を殆ど完全に利用し、生産増大の期して待つべき事確実なるものである。

思うに長期の完済期間をまつのみならず、実際は資金の借入れるところなく、遂行可能ならざる本計画案に固執し、徒らに時を経過するのは自他共に愚かなことであり、更生法の目的に遠く外づれる許りが却つて利害関係人の損害を助長し、会社の信用を失墜し営業上の機を失い将来償う事能はざる損害を受くる結果になるものと思料するので速かに更生裁判所の為したる認可決定を取消し相成度く、右取消によつて新たなる更生の計画を以つて臨み、之れを履践して、会社の為近く再建完成の日を迎へるように致し度く切に切願します。

疏明方法

第二乃至第三の全部に

更生開始以後の記録特にD冊

第一の(四)

通産省重工業局担当官其他

第一の(五)

大蔵省銀行局担当官、千葉銀行専務取締役奥野徳一、副頭取笹田登

第一の(六)

通産省担当係官

第二の(一)

管財人選任関係記録

第二の(二)

千葉銀行頭取古荘四郎彦、副頭取笹田登、専務取締役奥野建一、取締役監理部長鶴岡勝、丸の内二の二丸ビル七階高瀬青山、抗告人宮嶋鎮治

第三の(一)

第二の(二)と同じ

第三の(二)

池貝鉄工所株式会社常務取締役、日新火災海上保険株式会社常務取締役松田建設株式会社常務取締役高山広、光商工株式会社常務取締役斎藤電気商会青柳小四郎(元労組書記長)(横浜市南区大岡町五枚下一八四一)

第三の(四)

抗告人宮嶋鎮治及び高山広

其他必要に応じ明確に疏明する。

抗告理由補充書

第一本件更生計画案は法第一九四条第二項該当の計画案であつて行政庁である通産省の許可、認可、免許、その他の処分を要する事項を定めたものであるから、その事項について当該行政庁の意見を聞かなければならない。

即ち

通産省は所管事項として武器等製造法によつて受註其他の事由による製造許可武器の種類の変更に伴う許可を要し、又その製造設備及び保管設備に関し、維持義務があり、その増設改造等の許可を要する等法令の制約を受けているから、本件更生計画案の如く兵器製造設備等を他の工作機械製造に転換するとか、或はその一部を売却するとか或は機銃弾のみに製造重点をおく等変更売却等の処分する計画である以上、通産省の意見を必らず聞かなくてはならない。

(武器等製造法、同施行令、同施行規則参照)

又通産省には工作機械輸入補助金交付規定があり、之れに基き金属加工機械等、自己の用に供するため機械を輸入する際に於ける到着価格につき、法定の範囲内で補助金が受けられる。

然し之れには著しき変更の時は主管大臣の承認を受けねばならぬ(同規定第八条)とか、返済始期、期間、弁済金額等に関する負担義務が規制せられ、(同規定第十条)

或は大臣の附加条件に違反したときの制約(同規定第十二条)があるので、現在補助金の返還義務を負う日平産業としては(記録C冊七五頁裏更生債権認否表中「二六四番債権者通産業省補助金返還等合計六、三八八、八五七円」記載参照)債権弁済方法を計画せる本件計画案に対するについては裁判所は当然計画案に対する通産省の意見を聞かなければならない。(工作機械輸入補助金交付規定参照)通産省は火薬類の取締を所轄する。

本件計画案は兵器製造及火薬類の製造をする、火薬の製造、貯蔵、運搬、等に関しては厳重なる取締法条がある。即ち主管大臣の製造の許可、製造の施設、及方法の維持義務、製造の施設の変更に関する許可等多数の制約を受けているので、機銃弾製造等之れに関する本件計画案につき、裁判所は矢張通産省の意見を聞かねばならない(火薬類取締法等参照)。

以上の諸点から裁判所としては、本件更生計画案については当該行政庁たる通産省の許可、認可、免許、其の他の処分を要する事項なるが故に法第一九四条により必ず夫々該当計画事項につき通産省の意見を聞かなければならない。

然るに記録の何れの部分を閲査するも法第一九四条第二項に基く意見を聞いた事実はない。若し行政庁が此計画案に反対したる時は半その遂行は空に帰し布いて遂行見込なきに及ぶ重大なる法規違反あるものと謂うべく、その認可決定は失当である。(尤も更生債権者として関係人集会期日の一応の通知はあるも右は全然法第一九四条第二項による意見を聞いたものではない)

法第二三三条第一項第五号によると行政庁の許可、認可、免許、その他の処分を要する事項を定めた計画については第一九四条第2項の規定による、行政庁の意見と重要な点において反していない事を認可の要件としているが、裁判所は本件計画案につき前掲の如く当該行政庁である通産省の意見を求めて居ないから、その意見を知るに由なく此点からも認可決定の要件を欠如するもので右認可の決定は失当である。

第二会社更生法の目的とするところは、窮境にあるが、再建の見込のある会社の維持更生であつて、再生再建を離れた単なる債務の整理ではない。会社の更生再建があつてはじめて長期に亘る債務の返済が可能になるのであるから、更生計画案においては更生再建の具体的方策を示さなければならない。

本件更生計画案の事業計画によれば、「昭和三十二年以降の生産計画は左表の如く工作機械を主幹とし、これに若干の産業機械、機銃弾、加工工事に分けて説明しているが、この受注、生産、資金調達については何等の具体的裏付けがなく、管財人の単なる希望の表明にすぎない事は生産計画表(五頁)からも極めて明瞭である。

第六款弁済資金の調達計画によれば、更生担保権及び更生債権の弁済資金は別表D表に記載した弁済資金調達表の年度別計画に従つて、営業剰余金、借入金竝に増資払込金をもつてこれに充てる計画になつている。

前述した通り事業計画が具体性のない机上計画であるから営業剰余金もまた弁済資金の財源として期待する事ができない借入金の大部分は千葉銀行から融資を受けるものであつて、それが不可能である事は曩に提出した抗告理由書にのべた通りであるがこの点を別としてもこの弁済計画は借入金と増資払込金をもつて弁済資金に充てる事であり、会社資産の運営によつて事業の更生再建を図るものではない。

本件更生会社の如く長期に亘つて経営機能が麻痺し、社会的信用が全く失われている場合においては、単に管財人個人の経営手腕や努力のみでこれを更生再建する事は不可能である生産機能を回復するためには、受注の獲得、所要資材の調達不足人員の充足、設備の維持更新等を図らなければならないのであるが、これらをすべて外部に依存しようとしても、当会社の現状の下においてはそれは到底実現できない事である資金調達の面においても敢て危険をおかして融資するものはないであろう。これらの困難な諸問題を解決し真に当会社を更生再建する為には事業的に関聯ある大企業との提携によりその積極的協力と支授を受けること以外に方法はない。

本件更生会社の如くに最悪の事態にまで陥つた企業においては受注の半分、運転資金の全額をかゝる関係において獲得できるようにしなければ真の更生再建は到底おぼつかない。本件更生計画案においてはかゝる配慮は殆ど払われていない。当会社は機械メーカーとしてその長い経験と優秀な設備竝に技術はわが国において極めて高く評価されている。たまたま経済界一般の好況に恵まれ機械類に対する需要が増大しているのであるから、この状勢に応じ本更生計画案に記載したものゝみならず、各種汎用デイーゼルエンヂン、工具類、車両部品、自動車部品、計測器類、その他一般精密機械類の生産加工に進出し、もつて再建の基盤を強固にする絶好の機会である。

本件更生計画案によれば、月額生産高は昭和三十二年度四五〇〇〇千円より逐次増加して昭和三十六年には一〇〇、〇〇〇千円に至る事を目標としているが、当会社の工場規模からみてこの生産計画は低きに失する。経済界が今日の如き盛況を招くことは早くから予想されていたにもかかわらず、その後に作成された本更生計画案においてはこの好機を逸し、ただ現状維持を旨として経営する消極策をとつている。この更生計画案によれば工場設備の相当部分が経営上不用となり売却処分の対象とされることになる。かくして設備は崩壊して工場の一隅において細々と操業を続けざるを得ないことになり、会社は更生するどころか反対に破滅の一途を辿る結果となる。

管財人は会社財産を処分するに際し、売買条件、支払方法その他の面より背任の嫌疑充分なるにより曩に抗告人は告訴の已むなきに立ち至つたのであるが、これらの諸点を併せ考えるときは管財人は会社の更生を故らに遅滞させて巨大なる土地建物の廉価取得を図りつゝあるやの感を益々深くするのである。

第三更生会社日平産業株式会社の諸機械、諸設備建物土地等会社資産の評価は甚だ僅少に過ぎる、機械にしても一台一億円で借入したものが四もある、土地も約三十万坪あり総計三十億円以上はあると呼称されている。

管財人は就任早々法規に従い、その手続により評価しているが、その後鉄類等は急騰し物価もあがりたるに不拘三十二年一月七日の更生計画案の審理並に決議のための関係人集会に於て其の評価状況を説明し自分等のみで評価の適正である事を主張したるに止まり現実に誰々によつて如何なる方法、如何なる角度から評価したものが鑑定書その他何等記録の証すべきものがない、更生事件記録上果して之れをなしたりやさへ信用すべき書類がない。

従つて之等資産を現実に資金化するためその方法を公にし衡平、適正にする場合は呼称されるような三十億以上の価値は十分にあるものと確信する。

そして財力及信用あるものを求め得て之等資産を適正に使用運営する時は洵に生産向上は期して待つべく、本件更生会社は運営者に人を得たならば各種債権者、株主等に当該計画案より遥かに有利なる結果を招来する。

右様の資産状況であるから増資するため新株式を発行するも応募者は多数で容易である。

然るに更生計画案によると減資し旧株数の倍額以上の新株を発行しその募集方法を管財人一任とし、得たる利益は旧株主に配当せず増資したる新株主のみに配当する事としておる。そして前記関係人集会では新株負担は単に一部の協力者のみによつて之れをなす旨のみの計画の説明をしておる。

然し内実には呉羽、丸紅及管財人等が代表者である不二越鋼材、石川製作所等に於て新株を分配する事を企画して居て右集会に臨んでいる(此点労働組合幹部青柳小四郎を審訊下されると明白である)そこで抗告人は本件更生計画案による新株の発行及負担は前記の如く会社資産の状況のものに対しては、よろしく公募し応募不足額のあつた場合之れを管財人(代表する会社ではない)が責任負担する方途によるが公正、衡平な計画である。仮りに一歩を譲り管財人一任として可決された場合でも更生計画案を自由に作成し、一任によつて自由に新株を分配し得る権限のある管財人が自分の代表する会社に於て更生会社の新株を負担する事は配当確実にして利益ある会社の大口株主となる事であつて信義にそむき誠実に反するのみならず叙述の如く此の分配による新株発行は計画案作成の一部面として企図していたものであるから背任行為と断じて已むを得ない筋合で更生計画案が公正、衡平になされたとは断じて謂へないので取消さるべきものと思料する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例